定期レポート2013年4月
ソフィア・アイ :リーダーシップを高める道筋
昨年11月に出版された『採用基準』(伊賀泰代著、ダイヤモンド社刊)というビジネス書が話題になっています。
著者は長年世界的な有名経営コンサルティング会社・M社で採用マネージャーを務めていた人で、最近は時事的な話題を飾らないスタイルの文章で解説したブログを執筆している有名ブロガーでもあります。
本書は、著者の若手時代の経験から率直に丁寧な文章で説き起こし、たしかに好感の持てる内容です。
ただ、そのほとんどの記述は、タイトルの「採用」そのものではなく、現代におけるリーダーシップがいかにあるべきかについての持論の展開に当てられています。
著者の主張の要旨は、次のようなことです。
−リーダーシップは、最も重要な採用基準である
−グローバル企業で活躍する人材に最も求められる能力は、リーダシップである
−ところが、多くの日本企業では、リーダシップの意味が誤解されており、それどころか採用基準や人材要件から抜け落ちてしまっている。
−一方、多くのグローバル企業では、人材マネジメントとビジネスにおいて、リーダーシップが最も重視されている
−コンサルティング会社・M社はその典型例で、入社してから一貫してリーダーシップの発揮が求められる。また、リーダーシップの育成が、日々のビジネスの中で強く意識され実践されている。
−グローバルビジネスの中で活躍しようとする人材は、そのビジネスの種類、組織上のポジション(役職があるかどうか等)に関わらず、常に周囲のメンバーに好影響を与え続けるリーダーシップを意識し、その研鑽を図るべきである。
著者の言わんとするところはなかなか説得力がありますが、日本企業の現場を知る立場からは、その記述の中に肝心の視点が抜け落ちていることに気づかされます。
それは、ではなぜ多くの日本企業では、著者の言う「真のリーダーシップ」が実践されず定着しないのかという点です。
例えば著者は、リーダーシップは、役職があるなしに関わらず組織メンバーの誰もが意識し発揮すべきものだと断言します。たしかに、その通りになれば素晴らしいでしょう。しかし、ではなぜ日本企業の組織では、そのようにリーダーシップを発揮する習慣が根付いていないのかについては、ほとんど言及してくれません。
しかし、現実の組織を変えていくためには、まさにその日本型組織のいわば「病巣」に目を向け、切り込んでいく必要があるはずです。
やや専門的な見地からは、ではなぜ著者の関心が、そうした日本企業の現実に向かないのかが気になるところです。
それはおそらく、著者が若い頃から「一流のグローバル企業」の環境で育ち、そこで共有された暗黙の習慣と価値観を自明の前提と考えているからでしょう。
例えば会議に出れば、議題に関する自分の意見をストレートにビシビシ発言し、他者の意見に誤りがあれば忌憚なく指摘する。また、他者の職務をサポートできることがあれば、どんどん提案して行動に移していく。彼女にとっては、そのような行動習慣(スタイル)こそが当然なのです。
では、日本企業の社員は、なぜ会議で積極的に発言しないのでしょうか?
それは例えば、「若造のくせに、生意気なことを言うな」と、不見識な上司に何度も言われた経験があるからではないのでしょうか? それどころか、そのようなことが何度も積み重なって、組織の日常が「上役の前では、下手な発言は控える」という雰囲気に包まれていることもあるでしょう。 さらには、そのような状況を変えようと提案しても、上司から一顧だにされないばかりか、時には不当な圧力さえ掛けられる仕打ちを受けることもあるではないのでしょうか?
大事なことは、こうした現実の状況を掘り下げて共有し、それに立ち向かうことへの地道な合意を積上げていくことのはずです。
「これが正しい」という視点からいくら現実を批判してみても、その現実が生まれている構造や仕組みに切り込むことができなければ、結局現実を変える力にはならないのです。
本書は極めて好感の持てるテーマではあるものの、やはり外資系コンサルティング会社にありがちな、日本企業の「現実軽視」、またそれに基づく「論理的飛躍」の伝統を受け継いでいる印象が拭えないのも、また事実なのでした。
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