定期レポート2011年11月
ソフィア・アイ :危機の時代と人材育成
ギリシャの財政危機に端を発する欧州(EU)の経済危機が深まっています。
2009年のリーマンショック、今春の東日本大震災と、わが国は立て続けに深刻な危機に見舞われました。ところが、この秋になってタイでの大洪水によってメーカーのサプライチェーンが大きく混乱する等、その後も経済の環境に安定が回復する気配はありません。
さて、危機の時代は、同時に変化の時代でもあります。
もともと、グローバル化と技術革新の加速化によって変化のスピードは増していたところへ、危機対応としてのさらなる変化を迫られる状況になっています。
このような状況は、人材育成の危機でもあると、弊社では考えています。
というのは、次のような事情によります。
そもそも、人材の育成(学習)パターンは、次の4つに分類できます。
?形式知を形式知として伝える
?形式知を暗黙知として身に付けさせる
?暗黙知を暗黙知として伝え身に付けさせる
?暗黙知を形式知にして伝える
それぞれ見てみると、?(形式知⇒形式知)の学習パターンは、多くの企業で実施されている集合研修のコンセプトです。ある限定されたテーマをテキストやティーチング計画として整理し(※即ち、形式知)、それを講師がレクチャーによって伝えるという形態です。
?(形式知⇒暗黙知)は、時間を要する上に、その学習プロセスも訓練、努力の継続に負うところが大きいといえます。また、学説によれば、一旦形式知に置き換えられた暗黙知(=例えば、伝統的な工芸技能やメーカーでの製造技能等等)を元通りに再現するのは困難とされています。
?(暗黙知⇒暗黙知)は、言葉で表現すると難しそうですが、社会や組織では普通に行われている方法でもあります。その道のベテランが身につけたスキル(例えば、営業力等)を、後進の社員が一緒に仕事をしながら徐々に見よう見まねで覚えていくこと等がその典型です。弊社が提唱するメンタリング等による人材育成策が目指すコンセプトでもあります。
?(暗黙知⇒形式知)は、学習としては?とほぼ同様ともいえ、また?の中でも部分的に行われることでもあります。
それでは、こうした学習のあり方と、危機の時代がどう関係しているのでしょうか。
そのポイント、変化の速さにあります。技術や環境の変化が早いということは、学習にも速度が求められているということです。そうすると、自ずと学習は?(形式知⇒形式知)の学習パターンに偏重していくことになります。本当は?(暗黙知⇒暗黙知)が必要なのに、部分的には時間が掛かるように見える(本当はそうではないのに)ため、スピード重視の風潮の中でだんだんと軽視されていくようになります。
ここに、いわば「人材育成の危機」の本質はあるのではないでしょうか。
というのも、結局、新たな付加価値を生み出したり、ビジネスで成果を挙げ続けることができるのは、身についた能力(=暗黙知)でしかないからです。マニュアルを見ながら営業をすることはできませんし、労働法を覚えるだけで人事管理ができるわけでもないのです。そうした形式知を、繰り返しの鍛錬を通じて自分の内部に取り込み、血肉化した知識・能力だけしか、私たちは決して活かすことができません。
そのことが忘れられたり、あるいは軽視されているとしたら……、そこにこそわが国経済の危機の本質があると見るべきでしょう。
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