定期レポート2011年8月
ソフィア・アイ :労働時間問題とは何だったのか?
最新の調査結果(※労務行政研究所発表)によれば、今世紀に入って一貫して増加傾向にあったわが国の労働時間は、2009年度(平成21年度)に大きく減少に転じて、主要企業平均で年2038時間となりました。
直接の原因は、それまで年平均250時間前後あった残業時間が、一気に50時間近くも減少したことにあります。
ただ、根本要因は、リーマンショックを契機としてメーカーをはじめとする主要企業が大規模な生産調整・雇用調整を行ったことにあると思われます。
さて、それ以降、それまで深刻だった労働時間問題は、あまり取りざたされなくなりました。
では、労働時間問題は解消したのでしょうか?
ここでは、そのことを、そもそも労働時間問題は何だったのかという視点から整理しておきたいと思います。
いわゆる労働時間とは、給与支払いの裏づけとして労働基準法の規定によって区切られた時間です。
労基法には次のように規定されています。
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超え
て、 労働させてはならない。(労働基準法32条)
仕事に掛かる実質的時間がどうであれ、この「週40時間」以上は給与支払い対象にならない訳ですから、労働時間には基本的に算入されることはありません。もちろん、企業側もこれ以上の労働時間が発生しないようにマネジメントするというのが原則です。
ただ、この労働時間が正確に管理されているケースは、意外に多くないのではないでしょうか?
まず、深刻な問題として「サービス残業問題」があります。この主な発生原因は、「不適切な労働時間管理体制」、「定額制残業手当の不適切運用」といったことですが、近年ではいわゆる「名ばかり管理職問題」(※本来管理職ではない社員を不正に管理職扱いにして残業手当の支払いを行わないこと)がかなり広範に存在することが分かってきています。
また、サービス残業とは言えないまでも、労働時間には、仕事に掛かる時間かそうでないかを厳密に区分できないグレーゾーンが常に存在します。仕事のための社外交流への参加等は、労働時間に算入しないのが一般的でしょう。仕事に必要な情報収集さえも、必ずしも労働時間とは扱われないことも多いと思われます。
ましてや、仕事に必要な個人的な学習時間は、ほとんど労働時間とはならないでしょう。少々極端に言えば、絶対に労働時間とはならない気分転換や運動であっても、仕事でよいパフォーマンスを出すために行っている意味では、仕事に必要な時間と言えるでしょう。
こうしたサービス残業や「グレーゾーン」を放置してそれが蓄積すると、社員の不満要因になるのみならず、場合によっては様々な健康上の問題に発展することもありえるのです。
社員から見た労働時間とは、次のような算式の一部です。
[単位時間当り賃金×労働時間=報酬額]
この労働時間が、あくまで給与支払い対象となる時間に限られる、つまり、「実労働時間−広義のサービス残業時間」である点に、恒常的な不満の温床があります。
これに対して、経営者から見た労働時間は、次のような算式の一部です。
[労働時間×生産性(※能力レベル、仕事の仕組み、技術・設備等含む)=業績]
社員は成果として(少なくとも目先の問題としては)「報酬」を見ているのに、経営者は「業績」を見ている。
要するに、労働時間に対する視点が両者では全く異なっているのです。
労働時間問題とは何かと問われれば、多くの人々は「長時間労働問題」、「健康問題」、「サービス残業問題」等を挙げますが、その本質は、経営者と労働者とで労働時間に対する視点が大きく乖離していることにありそうです。そうすると、問題の根本的解決には、その乖離した視点の統合が必要になります。
これは、単に不満の解消のみならず、ビジネスの発展と企業の成長のためでもあるのです。
労働時間を賃金支払い対象時間と考える既存の法体系は、そのような意味での問題解決機能をまったく持っていません。
それどころか近年盛んに展開される「ワークライフバランス論」でさえ、そうした法的な労働時間概念を前提として語られているに過ぎないものです。
このように、労働時間問題の根は深く、企業経営や資本主義経済のいわば根本に関わっており、その解決には、既存の人事労務的な範疇を超える、新しいマネジメントの思想と仕組みが必要です。
その仕組み作りのためには、弊社でも企業向け支援に力を入れている、広い意味での対話のインフラが不可欠でしょう。
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