定期レポート2007年6月

ソフィア・アイ : 際限のない不祥事の連鎖

企業・組織における不祥事がとどまるところを知らない様相を呈しています。この6月に入ってからだけでも、介護サービス大手のコムスンが届出等に絡む不正で行政処分を受け、結局他社への事業売却を余儀なくされました。その帰結を見ないうちに、今度は英会話教室最大手のNOBAが、受講生の長期契約に伴うサービス提供の不備等を指摘され業務停止命令を受ける事態となりました。
官公庁では、社会保険庁の国民年金に絡む業務体制の崩壊が、あたかも底なし沼のような局面に入っています。
最近の情勢は、不祥事や事故が頻発する体質が、メーカーや基幹産業ばかりでなく、サービス業にも根深く存在していることを示しています。
振り返れば、大手鉄道会社W社で、乗客100名規模の犠牲者がでる大事故が起きたのは2年前のことでした。それと前後して、大手航空会社J社等で機体の整備不良やそれに伴う軽微な事故の頻発が報じられました。
こうした傾向は継続し、昨年は社会的にも大きな衝撃をもたらしたS社製エレベーターにおける死亡事故が発生し、同様の事故が他社製エレベーターでも引き続いて起こっています。また、電力各社では発電所の検査プロセスでの不正が再度続々と明らかになりました。建設業界では、法制変更後も相変わらず談合の摘発が続いています。また、工場の品質管理体制と生産プロセスに抜きがたい欠陥を抱えていたお菓子メーカーF社は、同業への身売りによって漸く存続の道を確保しました。
そして、最近のサービス業での立て続く不祥事。
まるで、今の日本には、まともに法令を遵守し適正な倫理観で業務を行っている企業・組織は存在しないのではないかという妄想さえ浮かんでしまう状況です。
このような事態の原因を一概に断定することは難しいのですが、わが国の社会基盤が、何か根本的なレベルで安定性を失っていることが、容易に見て取れます。
また、その「安定性」の欠損は、技術や技能といった側面よりも、組織の環境、その中での人間関係やコミュニケーションのあり方に、より深く関わっているように思われます。
例えば、鉄道会社W社で事故起こした運転士は、十分な運転業務の訓練を積む事ができない中で、「日勤教育」と呼ばれる懲罰的な処置だけは繰り返し受けていたことが明らかになっています。そうした組織環境の中で運転士は、業務に伴う苦悩を誰にも相談することができないでいたのでした。
また、介護大手のコムスンでは、その福祉分野の業態にも似合わず、営業会議での拠点長の座席は業績順に割り当てられ、毎月の業績が厳しく追及されているといいます。 要するに、問題の核心は、技術や社員の能力を活かしきることのできない、組織やマネジメントにあるのです。
今日の不祥事の連鎖を単なる社会的損失に終わらせないためにも、私たちの経営革新の力点をどこに置かなければならないかを学んでいきたいものです。

キーワード紹介1 : ”暗黙知”

哲学者マイケル・ポラニーによって提唱された暗黙知の理論は、21世紀の今日、図らずも企業組織の中に徐々に浸透しているようです。
コンピテンシーやコミットメントという言葉はあまり使わなくても、「暗黙知」を日常的に使っている人は多いのではないでしょうか。
ただ、暗黙知の概念は、ある意味ではかなり難解です。それは、学術的な難しさというよりも、それを理解するためにはいくつかの既成観念(※思い込み)を乗り越えなければならない点にあります。
「暗黙知とは何か」と問われると、「無意識のうちに知っていること」というような解答をする人が多いようです。とはいえ、この答では、暗黙知概念の単なる表層を説明したに過ぎません。
暗黙知理論は、まず知識の重層的な階層をその背景として想定します。
例えば、「Aさんの顔を知っている」という知識は、その「下位階層」に、Aさんの目や鼻や口、あるいはAさんが掛けているメガネという一連の知識が存在しています。ところが、通常私達が「Aさんの顔」を見てそれが「Aさんである」ことを認識する過程では、Aさんの顔のパーツを分析的に把握した上で認識するわけではなく、瞬時に見分けています。
暗黙知とは、差し当たり、「上位の階層」(※この場合は「顔を知っている」ということ)の背後に「下位の階層」の知識(※この場合は「目・鼻・口」等)が隠れていること、即ち暗黙化していることを指しています。
次に、こうした暗黙化がなぜ起こるかが重要です。
つまり、Aさんの顔を知るためには、その知るということに対する「私」のコミットメントが必要なのです。このコミットメントこそ、暗黙知が成立するための不可欠な要素です。
暗黙知理論では、上位階層の知識を「焦点的目標」、下位階層を「手がかり」といい、そこにコミットする人格と合わせて、暗黙知の「三組元素」と呼びます。
異なる知識の階層が暗黙知の運動によって統合される認知活動、この構図は、顔のような単純な知識にとどまらず、運動や仕事に伴う技能習得や、ひいては複合的技能としてのコンピテンシーにも共通する原理と考えられます。
その意味で暗黙知の運動は、今日的な能力開発や組織変革、さらには社会的なイノベーションにもつながる大きなエネルギーを伴っていると考えられます。

※配信登録をしていただくと最新レポートを電子メールでお届けいたします。

※ご入力いただく情報は、SSL暗号化通信により保護されます。
※「個人情報」は、弊社「プライバシーポリシー」に基づいて適切に保持」いたします。

            

会員登録